機関紙 ひと・まち no .23 2006.11.1発行

市民シンクタンクに思う
                                    熊崎 俊孝(ひと・まち社理事)

 行政は、それ自体がシンクタンク機能をもつといわれながら、実際は、民間シンクタンクに多くを依存してきた。とりわけ大きなプロジェクトの立案や環境変化の予測などの際には、計量経済的手法とコンピューターによる分析が必要であり、金融機関系のいわゆる"総研"に調査を委託してきた。
 臨海副都心開発計画の策定の時は、こうした民間シンクタンクが土地利用や収支見通しの予測、経済効果の試算などを担当し、その委託調査費は数億円の規模にのぼったと言われる。また、こうした大規模プロジェクトだけでなく、福祉などのソフト面を含むさまざまな施策を立案するにあたっても、また行政の基礎的なデータなどを作成するにあたっても、民間シンクタンクが大幅に活用されてきた。
 しかし、バブル経済崩壊後、自治体財政が逼迫して、大規模プロジェクトや新規施策が減ったことに加え、調査費そのものがプライオリティの低い経費として削減の対象になったことにより、自治体が民間シンクタンクを活用することが大幅に減少した。減少というより、無くなったといっていい状態になった。いまや民間シンクタンクは氷河期にあるといえそうだ。
 一方、東京都が調査部や計画部を廃止したように、自治体自身もシンクタンク的な機能を縮小してきている。政策の基本に立ち返った見直しや、分権改革、自治体改革の推進が期待されているにもかかわらず、その基盤ともなるべき基礎調査や研究機能は低下しているのである。
 さて、市民シンクタンクを掲げるわが"ひと・まち社"は、こうした行政のシンクタンク機能が低下していく過程なかで、誕生し、歩んできたわけである。そして自主独立の立場で調査し、政策提言することが目的であり、このことは、民間シンクタンクが、委託者である行政の意に沿うかたちで調査結果をまとめる(いわゆる「CS」)といわれることと基本的に立場を異にしている。
 したがって、同列には論じることではないが、民間シンクタンクの機能が低下していくなかで、当社がシンクタンクを持つことの意義は再評価されなければならないだろう。行政改革が進められている現在において、行政の立場ではなく、市民の目から、生活の実状、実態をつぶさに検証し、科学的に分析して、施策を提言していくことは、ますます重要になっているのである。
 その点で、当社が参加して行われた「介護保険調査分析プロジェクト」の5年間の実績と成果は、市民調査活動のモデルとして評価される。一方、ひと・まち社、東京ランポ、東京市民調査会などの6団体によって「市民力としてのシンクタンク構想プロジェクト」が検討され、その討議結果がこの10月に報告された。この構想では、各団体の蓄積した資源を活用、共有し、市民の生活の場における課題解決のための調査と政策提言をつくっていくために、新たな組織を立ち上げることが提言されている。ひと・まち社の機能も新たな段階を迎えた。
 真に市民の暮らしに立脚した調査、市民の実情に即した政策提案といえる活動に徹していくことこそが、行政や専門の調査機関に対抗して、その期待にこたえる途と考える。

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