機関紙 ひと・まち no .22

2006年5月3日から12日までの10日間、北欧の季節はちょうど冬から春へと移り変わる絶妙のタイミグで、市民セクター政策機構企画の「協同組合の旅」と、生活クラブ運動グループ福祉協議会企画の「福祉ツアー2006」の2つの北欧視察が行われました。ひと・まち社より参加した2人から報告します。

新しい小さな協同組合が活躍するスウェーデン
協同組合の旅に参加して 大河原 雅子

 21世紀型の「新しい協同組合像」の探求と国際的な協同組合や学識者との交流を目的とする「協同組合の旅」に参加し、スウェーデンとフィンランドの協同組合の活動を見聞してきました。EU統合の推進や市場原理に基づくグローバリゼーションの進展のなかで、「社会的経済」や「連帯経済」の枠組みが注目されています。


イェムトランド県のブレッケコミューンでの取材

市民社会をどうつくる?
 福祉国家の先進モデルとして様々に紹介されてきたスウェーデン。行き届いた福祉国家の姿に誰もが憧れ、同時に、諦めも持ったに違いありません。「あんな高負担高福祉は、日本では到底、無理。政治の仕組みも社会システムも違いすぎる」と。しかし、スウェーデンも百年前はヨーロッパの最貧国。ここから何を学ぶかが鍵です。今回の旅から、スウェーデンが世界の福祉モデルとなった本当の理由は、徹底した人権主義と民主主義であること、日本が学ぶべきは、人々のつながり方、自立した市民の協同の仕方と、それを可能にする支援の仕組みづくりだと実感しました。スウェーデンでは、共助の伝統が強く、国民一人あたり平均4つの全国規模のアソシエーションに所属しているといわれます。生協や農協、住宅・保険など既存の大組織の協同組合も、現在では、市場経済のビジネスセクターに伍する巨大なグループを形成していますが、さらに注目されるのは、新しい小さな協同組合です。

市民による多種多様な公共空間づくり
 スウェーデンといえば大きな政府、社会福祉分野で働く人は、全て公務員というのがこれまでの理解です。しかし、公的セクターに独占されたサービスには、画一化や非効率の批判が集まり、供給を超える需要の拡大など、新たなサービス供給者の開拓なくしては解決できない分野もでてきました。保育の分野では、両親による当事者協同組合や公的セクターの職員が独立して始めた職員協同組合による保育園など多様化しています。特に、過疎地では、三人から設立できる小さな協同組合があらゆる分野を担い始めています。
 私たちが訪れた地方都市エステルスンド(イェムトランド県)は「社会的経済を進めるヨーロッパ都市・地域ネットワーク(通称:REVES)」加盟都市の一つです。際立った産業もなく、広大な原野に少ない人口、少子高齢化が進むこの地域では、「助け合わなくては生きていけない」と誰もが臆することなく話していたのが印象的でした。


村のよろず屋も協同組合

 保育園や高齢者・障がい者施設、コミュニティ集会所や文化事業の運営も、風前の灯となった村のよろず屋の継続も、村おこしのためのレストランの経営も、協同組合方式です。一人一人の起業支援も、起業者が協同組合をつくり共同事務局を雇うなど、新たな協同組合の活動範囲は拡大しています。また、適切な情報を提供し、教育と相談を行って協同組合づくりを支援する協同組合振興エージェンシー(CDA)の存在も特徴的でした。
 改めて協同組合の基本的価値に触れ、これらの価値が21世紀を切り拓く鍵であることも確信しました。また、安心と連帯による人間的な生活の回復こそ、日本の課題だと痛感しました。
 


フィンランドの障がい児保育 個人の自立を支える福祉国家  
(福祉ツアーに参加して)松浦 恵理子
 「ゆりかごから墓場まで」といいますが、北欧では妊娠が分かったときからケアがスタートします。自治分権がすすんだフィンランドでは包括補助金制度によって、自治体の裁量で自由に使途を決めることができますが、私たちが訪問したヘルシンキの健康医療センターでも赤ちゃんを迎えるための両親に向けた独自のプログラムに取り組んでいました。出生後の子どもには「子ども手帳」が発行され子どもの健康管理をトータルに行っています。障がいがあると分かった子どもには、個別のフォローがされ、入園にあたっては、各機関からの情報提供がされ、子どもの状況をみてどの保育園がその子に最適なのかを親と園長が話し合いクラスを決めます。ヘルシンキ市内には、重度障がい児のための保育園が3園あり、その一つ、東ヘルシンキ地区にあるPaivakoti Laakavuori 、ラーカヴォリ・パイヴァコティ保育園を訪問しました。

一人一人の障がい児の到達目標を持った保育
  自宅のように落ち着いた室内で
トランポリンや歩行器を使って遊ぶ園児たち

 障がい児のためのクラスには、統合グループと重度のグループがあります。統合グループは、比較的軽度の障がいがある子どもで、他の健常児と一緒のほうがよい影響があるだろうと考えられる子どもが入ります。コミュニケーションのとりにくい重度の子どもは少人数の別のクラスが用意されています。いずれも一人ひとりの障がいによって適切な補助器具が用意され、各自の到達目標を持って専門性を持った保育士が対応します。コミュニケーションがとりにくい子どものためには絵や道具によって今日のプログラムが理解できるように配慮されています。

 クラスは一緒でなくても同じ保育園にいることで交流があり、健常児にとってもそれをあたり前のこととして受け入れることができるようになります。
 保育園の選択にあたっては家からの距離も考慮の一つなのだそうですが、秋から入園を予定している障がい児は、家はヘルシンキ市の反対側で遠いのですが、その保育園が最適ということで親と話し合って入園を決めたそうです。通園のためには公費でタクシーが用意されます。

自立を育む質の高い教育
 フィンランドでは教師は「国民のロウソク」といわれ、尊敬される職業となっています。教師には修士以上の資格が求められ、保育園でも半数くらいの人が修士の資格を持っています。この保育園でも、障がい児担当の保育士は大学または大学院で特別児童保育の教育を学んだということでした。日本では規制改革・民間開放推進会議で保育園選びに自由度を広げ、外国人労働者の受け入れ要件を緩和し、日本語検定2級以上や高卒以上の学歴を条件に在留資格を付与するという中間答申をまとめたそうですが、子どもの健康な発達と自立を育むことを考えての答申なのか疑問が残ります。
福祉国家でありながら経済力も併せ持つフィンランドの基本は、家庭状況や母国語などに関係なく、すべての子どもに平等に、かつ、「本人の必要に応じて」いつでも学ぶ機会、教育の自主性を保障することからはじまるように感じました。
 


ピクトグラムと呼ばれる絵文字のシンボルマーク。言葉によるコミュニケーションをとりにくい子どもたちがよく見えるとこに、絵文字で表した1日のスケジュールを左から右へ並べている。

 
 

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