機関紙 ひと・まち21号 2006.4

福祉サービスを評価するのは誰?  
                         ひと・まち社 評価室担当理事 池田敦子

 第三者評価の流れ

 介護保険制度は、福祉サービスを受ける利用者とサービスを提供する事業者の関係を変えました。1990年来の社会福祉基礎構造改革のキーワードある地域・在宅・個人がもっともみえやすい形で推進されたのが介護保険サービスです。「誰もが」加齢による障害を持つ可能性があるという前提に転換し、自己負担をともなう公的サービスの質を公平・平等・自立支援の視点から評価するしくみが必要となりました。東京都は国に先んじて福祉サービスの第三者評価システムの検討を始め、国も様々な検討をスタートし、競争原理の中で事業者のサービスの質の向上と利用者の選択に資するという2つの目的を実現するしくみとして、東京都は独自項目による福祉サービス第三者評価事業と結果の公表を、国は全国一律項目による介護保険サービスの外部評価を実施することになりました。(下記表参照)

介護サービス情報の公表制度

 東京都は2002年度に評価機関認証、評価者養成講習と評価の試行、2003年度から本格実施しました。同時に第三者評価事業推進のために事業者に評価費用の補助金を予算化し、2004年度からは在宅系サービスの評価を自治体に下ろし自治体への助成もはじめました。ひと・まち社は、試行段階から東京都の評価機関の認証をとり、評価事業に参加してきました。全国的には第三者評価の費用は小規模な事業者にとって負担が大きく、介護保険で負担すべき、評価機関によって評価結果にばらつきがあるなどの議論を経て、2003年の介護保険制度改正により利用者の権利擁護、サービスの質の向上に資する情報の提供という目的で「介護サービス情報の公表」が義務化され、2006年度から事業者の情報公開が実施されることとなりました。東京都では、都方式の第三者評価の課題として、評価結果のばらつきを解消し客観性を高めるために評価手法の改訂や評価者のフォローアップ研修を強化しています。また、国の公表制度によって、手間ひま、金もかかる第三者評価を事業者が敬遠するのではないかという憶測の中で、今年度も東京都は対象サービスに有料老人ホームを加えて補助金を昨年より増やし、第三者評価の実施をスタンダードとする目標をおろしていません。第三者評価の義務化は今のところグループホームだけという中で、事業者は情報の公表だけを実施するのか、第三者評価も行うのかは、費用対効果という考え方では結論が出ない状況と思われます。

 東京都サービス評価推進機構が発行した「サービス改善、次のステップへ」と題する第三者評価の活用事例集には、利用者調査の率直な意見をもとに日頃のサービスを検証し職員研修につなげる取り組みを行ったグループホームなどが紹介されています。情報の公表は、事業所がサービス提供に必要な項目に対して取り組んでいるか否かを調査員が書類や記録の有無のみをチェックした結果を公表する内容です。福祉サービスは誰のためのものか、サービスの質を評価するのは誰なのか、利用者が本当にサービスを選択し決定できるだけの情報が提供されるのかが問題です。

利用者自身によるサービス評価の試み

 ひと・まち社は、東京・生活クラブ運動グループ福祉協議会との共同調査(1999年〜2003年)を進めていましたが、現実には、利用者がサービスを選択する状況は少なく、特に特養などの施設は多くの待機者が空きあればどこでもOKといった状況で、事業者が利用者を選択する逆転の実態がありました。そこで、調査メンバーは2002年から「地域福祉サポート・ザ・サポート」という活動を立ち上げ「地域福祉の市民相談」と「利用者によるサービスチェックリスト」づくりを進め、利用者側からの評価の実現に取り組んでいます。現在3年がかりのチェックリストがまもなく完成するところです。この仕組みは2つの目的を持っています。介護保険の在宅サービス利用者自身が、サービスを使った結果、どのように感じたかをチェックリストで採点し、次のサービス選択に役立てることが目的の第1です。第2の目的はチェックの結果を、ひと・まち社に回答いただき、そのデータを蓄積しサービス評価につなげるという気の長い話です。サービスを使って自分らしい生活を実現するのは利用者自身という調査の結論から出た試みなのです。

東京都及び国の福祉サービス第三者評価の取り組みの経過
年度
東京都
国(厚生労働省)
1999 ●東京都福祉サービス評価制度検討委員会設置 .
2000 ●地域福祉サービス評価票かシステム検討会設置 ●福祉サービスにおける第三者評価事業に関する報告書(社会・援護局長の私的懇談会)
2001 ●福祉サービス第三者評価システム検討会設置 ●⇒「福祉サービス第三者評価事業の実施要領について」(社会・援護局長通知)
2002 ●福祉サービス評価推進機構設立 ●「認証・公表委員会」、「評価研究委員会」を設置し評価機関の認証、評価者養成講習、評価結果の公表、共通評価項目の検討、評価手法の開発見直しなどに取り組む。さらに88件の事業者において福祉サービス第三者評価試行 ●よくできている〜全くできていないの5・4・3・2・1の5段階評価方式を採用 ●「児童福祉施設における福祉サービスの第三者評価事業の指針について」(社会・援護局長通知) ●「指定認知症対応型協同生活介護(認知症高齢者グループホーム)の適切な普及について」の一部改正について」(老健局長通知)⇒認知症高齢者グループホームに対する外部評価(第三者評価)の義務化
2003 ●東京都方式により特別養護老人ホーム、認知症高齢者グループホーム、障害者施設、認可・認証保育所、訪問介護など35サービスについて第三者評価制度本格実施。666事業所が第三者評価実施 ●「社会福祉法人が経営する社会福祉施設における運営費の運用及び指導について」(雇用均等・児童家庭局長、社会・援護局長、老健局長連名通知) ●「保育所運営費の経理について」の一部改正について」(雇用均等・児童家庭局長通知)⇒第三者評価を受信しその結果を公表することで運営費の弾力運用を認める要件とする
2004 ●評価対象サービス45種類に拡大 ●国動向を見ながら「評価・研究委員会』で評価手法の改善に取り組む ●「福祉サービス第三者評価事業に関する指針について」(雇用均等・児童家庭局長、社会・援護局長、老健局長連名通知)⇒都道府県に対し評価機関、評価基準、評価結果公表のガイドラインが示される ●「福祉サービス第三者評価基準ガイドラインにおける各評価項目の判断基準にかんするガイドライン」(通知)⇒都道府県に対するさらに細かい判断基準が示される ●「利用者による介護サービス(事業者)の適切な選択に資する情報開示の標準化についての中間報告書(老健局)
2005 ●評価機関130、養成評価者数1,249人 ●東京都方式の評価基準の客観化,利用者理解、無理なく全事業所評価実施を目標にシステムの見直しと改善を行う ●A・B・Cの3段階評価を基本に特に優れているA+の4段階評価に改善し標準的なレベルをBとする方式に変更 ●⇒都道府県において情報開示の標準化に基づくモデル事業実施
●介護保険制度改正 ⇒「介護サービス情報の公表を都道府県事務として義務化
2006 ●東京都福祉サービス評価推進機構が国の「介護サービス情報の公表の指定情報センターとなる ●18年度東京都福祉サービス第三者評価継続  ●⇒「介護サービス情報の公表に関する調査事業」本格実施
東京都福祉サービス評価推進機構17年度評価者研修資料から作成


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